炎天下から逃れたくて2人で偶然入った、いかにも老舗といった喫茶店。
店員がいそいそと持ってきたメニューに載っていた見慣れない文字に、興味をそそられた。
「確かに。他は普通なのに、これだけ短いよな」
「気になるし、オレこれにしてみるっす。ハヤトっちは?」
「それなら、俺も飲んでみようかな」
注文してしばらくしたら運ばれてきたグラスに入った飲み物ふたつ。淡く色づいた細長いグラスに入った、薄い黄色とグラスの縁に添えられた輪切りのレモン。
見慣れないメニューの正体は、四季も隼人もよく知る飲み物だった。
「レモンスカッシュだったんすね!」
「確かに、言われてみればレモンスカッシュだ!」
なんて感心しながらも、カラカラの喉の渇きは抑えられず。2人はグラスに刺さったストローに口をつけ、軽く吸う。甘さと酸っぱさが混ざった風味と冷たい炭酸のシュワッとした刺激。先程までうだるような暑さの中にいて熱った体によく沁みる。
(確かに美味しいけど……サイダーとかと違う気がするな……)
この喫茶店のセピア色の雰囲気のせいなのか、不思議で懐かしい感覚にそそられた四季は、味わうようにゆっくりとストローでレモンスカッシュを吸ってみる。
(あれは昔、姉ちゃんから借りた漫画だったっけ……)
姉が持っていたかなり昔の少女漫画。
一度だけ借りて読んだ時には淡い恋愛を描いた内容についてはこれしきも理解できなかったが、四季の記憶に結びついていた描写があった。レモンスカッシュを飲む描写と、印象的な台詞。それは……。
「……初恋の味、っすね」
カラン、ぽちゃん。
落ち着いた空間に響く、場違いな音。隼人のストローが右手から離れてグラスの中の氷にぶつかった音だった。
目の前の恋人は、ほっぺを赤くした、驚いた顔で。
「え、そんなに驚くことっすか……」
「まあ、うん……シキもそんなこと言うんだな、って……」
こんなロマンチストな言動は、確かに四季のキャラではない。いつもの隼人なら簡単に軽口であしらって揶揄うはずだが、今日はなぜかドギマギしているのか、ずっと照れている。
暑さなのか、店の少しだけ大人な、落ち向いた空気のせいなのか。それとも、先輩と後輩から発展して、もうお付き合いしているからなのだろうか。四季にはまだ、わからなかった。
「こんなことも言うっすよ。これはオレの、初恋なんすから」
恋は人を変えるなんて言うが、きっと隼人も四季も、少しずつ変わり始めてるのかもしれない。柄にもなくロマンチストになることも、きっとそのせいだ。
「ハヤトっち。これ飲み終わったら、初恋の味……試してみるっすか?」
「……ばか!」
「冗談っすよ」
立場上しっかり抑えてみるが、やっぱりいつかさせて欲しいのは本当で。
後でまた、夏の暑さのような初恋の味をねだってみよう——そう思いながら、四季はまた、ストローに口をつけた。
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